時々インターネット上で「交通系ICカード」を警察に届けた場合に、いくら報労金(一般的にはお礼)がもらえるかどうかが話題としてあがっています。さて、実際に「交通系ICカード」を拾った時にはどうなるのか見ていきましょう。岡山に住んでいる私のところはJR西日本管内なので普通は「ICOCA」と使うことになりまが、東京に出かけた時に在来線普通列車のグリーン車を使用するのであえて「SUICA」を別に所持しています。
法律上の扱い
交通系ICカードの所有権
結論からいうと、所有権は発行者である「JR等」に帰属します。買うときには、気にしませんがICカード乗車券取扱約款がありその内容に同意したうえでの契約を交わしたことになります。例えば、JR西日本ICOCAだと次のようになります。
第4条 ICOCA乗車券による契約の成立時期は、ICOCA乗車券を購入したときとしま
ICカード乗車券取扱約款
す。
そして、交通系ICカードの所有権は、発行者側にあることが明示されています。
第12条 ICOCA乗車券に使用するICカードの所有権は、ICOCA乗車券の発売箇所に
ICカード乗車券取扱約款
かかわらず、当社に帰属します。
なので、交通系ICカードの発行者である「JR等」が、利用者に貸与していることになります。「キャッシュカード」「クレジットカード」についても同じ規定が約款の中にあるはずです。したがって、報労金を支払うのは利用者ではなく、交通系ICカードを発行している「JR等」になります。
報労金の支払いについては、遺失物法で次のように定められています。
第二十八条 物件(誤って占有した他人の物を除く。)の返還を受ける遺失者は、当該物件の価格(第九条第一項若しくは第二項又は第二十条第一項若しくは第二項の規定により売却された物件にあっては、当該売却による代金の額)の百分の五以上百分の二十以下に相当する額の報労金を拾得者に支払わなければならない。
遺失物法 | e-Gov 法令検索
一般的には、お礼として認識されている、報労金の支払いは義務となっています。ただし、取得者(拾った人)が権利を放棄すれば免除されます。この場合は、交通系ICカードの価値が対象ですので一応は受け取ることはできますが微々たる金額でしょう。「JR等」が支払わないと言えば裁判で請求はできますが(カードの価値のみですが)、メリットはないので普通しないでしょう。
チャージされている金額はどうなるのか
次に、チャージしている金額について見ていきましょう。これも、基本的には本人しか使用できないものですので、他人が取得しても金銭的な価値はないと考えられます。交通系ICカードは、あくまで貸与されているものなので発行者の許可なしには他人に渡すことはできないことになります。法律的には、民法594条2項の適用が根拠となります。
第五百九十四条 (略)
民法 | e-Gov 法令検索
2 借主は、貸主の承諾を得なければ、第三者に借用物の使用又は収益をさせることができない。
3 (略)
よって、取得者が報労金を受け取ることはできません。定期券の場合は、扱いが異なりますがこちらは、遺失物法により権利を否定されています。
第三十五条 (略)
一 (略)
二 個人の身分若しくは地位又は個人の一身に専属する権利を証する文書、図画又は電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られた記録をいう。以下同じ。)
三 (略)
四 (略)
五 (略)
実際どうすればいいのか
無記名式の交通系ICカード
そもそも、利用者の特定が不可能です。財布に一緒に場合は使用者が特定できるので警察署で受け取ることは可能でしょう。その場合、法律的には報労金の支払いは不要です。とは言っても人間として相手に感謝するのは当然のことですので、お礼を言った上で金額にもよりますが何らかの品物を渡すことが普通でしょう。
実際、取得者が勝手に使用したとしても特定はできません。無記名式の交通系ICカードを落とした時は、戻ってきたらラッキーだと思ったほうがいいでしょう。
記名式交通系ICカード・定期券
こちらは、交通系ICカード単体でも使用者の特定はできます。警察に届けられたのであれば、お礼を言うのはマナーだと思います。ただ、トラブルに発展する可能性がありますので発行者に連絡して利用停止をしてもらうのが一番安全でしょう。再発行の手続きをとれば、チャージされた金額・定期券は、新しい交通系ICカードで利用できます。警察に紛失届を出し受け取れば相手に連絡先(名前・住所・電話番号)が伝わります。犯罪等に巻き込まれる恐れもありますからリスクを考えれば、受け取らないほうがいいでしょう。
まとめ
落とし物を他人が拾って警察に届けてくれたのですから本当は、お礼を言うのが礼儀でしょう。しかし、リスクを考えれば、あきらめるか再発行の手続きをするのが一番いい方法です。こういうご時世ですので仕方ないことだと思います。
JR等の駅に届いた場合は、警察に届けられていないので遺失物法の適用はありません。身分証とかが一緒になければ氏名・利用区間以外の情報は取得者には分かりません。この場合は、取得者に感謝して(電話などはできませんが)駅に受け取りに行きましょう。
直接の関係はありませんが、山陰本線(鳥取ー米子間)と鳥取県の路線バスでICOCAが利用できるようになります。山陰本線が、今年のダイヤ改正(3月15日土曜日)から、路線バスは来年の春からとなるようです。
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