北陸新幹線新大阪延長については、「小浜ルート」での延長が決まっていますが、鉄道ファンのみならず一般の方からも「米原ルート」を推す声が大きくなってきています。岡山に住んでいる私にとっては、米原ルートの方が便利になりますが実際可能なのでしょうか。検討してみたいと思います。
現在の状況
北陸新幹線は、、1973年(昭和48年)11月13日に整備計画が決定された5路線(北海道新幹線・東北新幹線(盛岡ー新青森)・北陸新幹線・九州新幹線・西九州新幹線)の一つです。長野オリンピックに間に合わせるため1989年(平成元年)に工事が着工され、1997年(平成9年)10月1日に「長野行き新幹線」として開業しました。次いで2015年(平成27年)3月14日には、金沢駅まで延伸されこの時点から「北陸新幹線」と呼ばれるようになりました。昨年(2024年(令和6年)3月16日)に金沢ー敦賀間が開業し今の姿となっています。
国の計画では、この後東小浜駅付近を通り京都府を南北に抜け、片町線(JR学研都市線)の松井山手駅を通り新大阪駅に繋がることになっています(小浜ルート)。
しかしながら、京都府美山地区・京都市内の反対による完成の遅れ、工事費用の大幅な増額(約5兆円)、人口の少ない福井県嶺南地区を通ることにメリットがないことなどから北陸本線に沿って米原駅で東海道新幹線に接続する「米原ルート」を推す声が大きくなってきています。
整備新幹線着工5条件からの検討
国鉄時代には、在来線の増線という形で新幹線は着工されましたが国鉄民営化後は、新しいルール(整備新幹線着工5条件)での着工となっています。そこで、その観点から「小浜ルート」「米原ルート」について検討してみましょう。
「小浜ルート」
現時点では、敦賀から東小浜駅付近をとおり、京都府を南下し京都駅もしくは桂川駅に駅を作り、片町線(JR学研都市線)の松井山手駅から新大阪の地下に繋がります。
- 安定的な財源見通しの確保(×)
営業主体であるJR西日本が支払う線路使用料を引いた金額を、国が3分の2、自治体が3分の1払うことになっています。現在のインフレにより当初2兆円と言われていた工事費が今では約5兆円になると言われています。
京都府・京都市は、北陸新幹線を認めない方針ですので、自治体の負担分の捻出が難しい状況です。国の負担分についても、少数与党の現状では、予算が付くか不透明な状況となっています。
- 収支採算性(〇)
関西地区と北陸地区を結ぶ需要は、ほとんどが北陸新幹線に移転すると思われます。また、新幹線となることで特急料金が高くなりますので問題はないと考えます。中京地区への乗客は、「しらさぎ」の利用となるためほぼ収支には影響しないでしょう。
- 投資効果(×)
当初は約2兆円でしたが、利益(B)に対する費用(C)の割合であるB/C(費用便益比)は、2016年(平成28年)の試算では1.1でした。コストにあたる工事費が5億円となったことで新たなメリットについて検討する必要があります。よほどの名案がない限り1を上回ることはないでしょう。
- 営業主体であるJRの同意(〇)
今の利用者をほとんど取り込める上に特急料金が高くなります。また、敦賀駅での乗り換えが必要となったことで、「サンダーバード」から「新快速」の利用に切り替えた乗客を取り戻すこともできるでしょう。JR西日本にとって反対する理由はありません。
- 並行在来線の経営分離についての沿線自治体の同意(△)
JR西日本は、以前に北陸新幹線の並行在来線は湖西線と発言したことがあります。もしそうなれば湖西線沿線の利用者・自治体は反対すると思われます。ただ、湖西線と残すことでの収支次第では経営分離しない可能性もあります。また、そもそも滋賀県内を走らない北陸新幹線が、滋賀県内を走る湖西線の並行在来線になるかという議論もあります。これは、JR西日本の経営判断次第だと思われます。
「米原ルート」
こちらについては、敦賀駅から北陸本線に沿って南下し米原駅で東海道新幹線と接続するルートとなります。なお、現状では米原ー新大阪間については線路容量の関係で乗り入れができない前提でみていきます。
- 安定的な財源見通しの確保(×)
こちらのルートは、工費が約5,900億円とされています。インフレでの物価上昇を考慮しても2兆円まででしょう。こちらは着工機関が短いので1兆円ぐらいで収まると思います。「小浜ルート」が可能ならば出せない金額ではないとでしょう。しかし、滋賀県は、メリットのない「米原ルート」(よくて長浜駅が設置されるぐらいのメリットしか享受できない)に反対しており自治体負担分の確保ができない状態です。
- 収支採算性(△)
「米原ルート」を採用した場合、大阪駅からだと2回乗り換え(新大阪駅・米原駅)になります。また、敦賀駅での乗り換えの需要もある程度残ると思われますので「サンダーバード」は運行を続けるでしょう。そうなると、敦賀ー米原間の利用はある程度減少すると思われます。現象度合いによっては、収支の悪化となるかもしれません。
- 投資効果(〇)
1番目の条件とも重なる部分が多いですが、2016年(平成28年)の試算では、B/C(費用便益比)は2.2です。早期に完成することも踏まえれば1を割ることはないでしょう。これについては、「米原ルート」の方が優れています。
- 営業主体であるJRの同意(×)
米原ー新大阪間は、JR東海の運営する東海道新幹線です。もし、「米原ルート」での運行となれば、JR西日本にとっては収入を奪われる形となります。「サンダーバード」の運行を続けても確実に利用者は減少します。普通に考えて、JR西日本が同意するとは思えません。
- 並行在来線の経営分離についての沿線自治体の同意(×)
「米原ルート」で着工した場合、滋賀県内には駅は「長浜駅」・「木ノ本付近」のうち1つが付けばいいところでしょう。人口の多い長浜市に新幹線を付けたとしても7.7キロしか距離がないので利用しないと思われます。大阪方面にいくとしても、米原駅で特急料金の計算が打ち切られるので経済的に特になる面はありません。
一方、長浜駅は大阪方面から新快速が乗り入れていて乗り換えなしで関西方面に行くことができます。経営分離されると米原駅での乗り換えが必要になり運賃も高くなるでしょう。この面からも同意を得るのは難しいでしょう。
また、並行在来線として分離されると輸送密度の低いこの区間は、自治体が補助を出して第3セクターでの運行となると思われます。新たな負担の発生は、自治体の望むところではないでしょう。
その他の案
- 「小浜ルート」の小浜駅までの先行開業
1月9日に福井県知事の発言した案です。これについては、メリットがほとんどないと思われます。以前の記事で取り上げましたので詳細はそちらを見てください。
- 東海道新幹線(名古屋ー新大阪)をJR西日本に移管
小松市長・加賀市長の提案した案です。この場合、米原ー新大阪間の収入は、JR西日本に入ることになり増収となるでしょう。ただ、JR東海がドル箱路線のこの区間を手放す理由はありませんし、多大な金額を出してJR西日本が買い取ることも難しいと思います。
- 東海道新幹線に沿って米原ー新大阪間に新線の建設
これは、工事費の安さで優位に立っている「米原ルート」にとって不利に働きます。当然、京都市内をどうするかと人口密集地に線路を引く費用を考えればあまり意味のない案だと思います。京都駅・新大阪駅には、新幹線ホームを増やすだけの余裕はありません。地下を使うのであれば、工事費は「小浜ルート」以上になる可能性があります。これも実現困難だと思います。また、「リニア新幹線」が新大阪まで開業すれば、東海道新幹線の線路容量にも余裕ができますので必要のないものとなるでしょう。
- 敦賀ー米原間のJR東海による運営
この方法をとれば、JR西日本の合意は不要ですし、会社の違う北陸本線は並行在来線にはならないでしょう。ただ、北陸新幹線をJR3社で運営する形となり調整が困難になります。当然、JR西日本とJR東海の間の関係悪化は避けられません。実現可能性は低いものと思います。
- 整備新幹線着工5条件の見直し
理屈上は可能です。ただし、今までに工事費用を負担した自治体、在来線の経営分離を認めた地域にとっては納得がいかない話です。当然、政府へ何らかのものを求めてくるでしょう。整備新幹線着工5条件の見直しを納得して整備新幹線を付けています。これは絶対にやってはいけないと思います。見直すのであれば、国が全額負担して整備新幹線を運行するのが道理でしょう。
まとめ
北陸新幹線の新大阪延長は、現時点では相当困難です。どの案をとってもうまくいくことはないのではないでしょうか。利用者目線で見れば、「米原ルート」で東海道新幹線乗り入れが最善の方法に見えますが、JR西日本・滋賀県の同意はまず取れないでしょう。結局、今の敦賀乗り換えが続くという結論に達しました。
コメント